バッタを倒しにアフリカへ (2017) 前野ウルド浩太郎

 

 20年前以上になるけど大学院時代を思い出した。就職氷河期で研究者は学校に溢れていて、未来が見えないまま不安な生活を送っている研究者の卵がたくさんいた。私は修士を終えて、自分の研究を強引に職業に結びつけて企業に就職した。むしろ溢れる学生を考えると、教授の負担にならぬよう、就職する方が良いものではないかと思った。なので卒業のパーティーにて、大学院の研究長に修士論文を「シャープだった」と褒められ、「君は残るのだと思った」と言われて嬉しかった。もっとも、私は活動家なので、文献の世界に埋もれるのは無理と思い企業に就職。今もそのことを後悔していない。

 

前野氏は、もっと孤独だっただろう。だってバッタ研究ってとても辛そうだ。どうにもこうにもいつの時代でも全く就職の道が狭いだろうと思う。でも前野氏のすごいところは、道を切り拓く力だ。底抜けに明るく、好きなものを直視し、謙虚で向き合う姿勢がこの本には溢れている。西アフリカにあるモーリタニアを悩ませているサバクトビバッタを研究しに乗り込む。

バッタ研究なんて需要あるの?と思うが、今年はインドにも大量のバッタが発生し、中国にも被害が及ぶ可能性が示唆されていて、実はタイムリーな話だった。タイムリーというか、バッタの被害は聖書やコーランにも記されているらしく、古来から今も続く天災ともいうべき存在で、一度発生すると、数百億匹が群れ、東京都くらいの広さの土地がバッタに覆い尽くされるとのこと。1日100Kmの移動も可能で、西アフリカだけで400億円以上の損害になるらしい。恐ろしい。

前野氏がすごいな、と思うのは、研究者ではありながら、周りへの気配りや、ユーモアがたっぷりで、それでいてストイックなところ。書いてあるエピソードは茶目っ気たっぷりだが、現地の人もリスペクトする行動力は凄い。痛快な研究エピソードが綴られている。

バッタの話が中心の解説本かと思いきや、バッタ研究所を中心とした現地の人々との格闘記録が中心でそれが面白い。でも現地の人々を面白おかしく綴っている訳ではなく、むしろ心から感謝をし、リスペクトをしているのが行間から伝わり、それも読んでいて心地よい。虫とか大好きな高校生にぴったりの本だと思った。

ひたむきさ、ユーモアは国を超えても通じるもの。それがよくわかる本だった。